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過労死企業名公表裁判の控訴審期日の報告

2012年06月30日

 本日、過労死企業名公表裁判の控訴審期日がありました。今回は当方弁護団から準備書面を提出しております。
 内容は相手方である国側の準備書面に対する反論が中心です。
 この過労死企業名公表裁判は、全国過労死を考える家族の会代表の寺西笑子さんが原告となり、私が所属している大阪過労死問題連絡会という過労死・過労自殺問題に取り組む大阪の弁護士のネットワークの有志が弁護団として取り組んでいる訴訟です。私は、情報公開請求の当初より、この弁護団において主任を務めさせていただいております。
 1審である大阪地裁ではほぼ全面勝訴しており、現在は控訴審(大阪高等裁判所)で闘っております。
この訴訟に至る経緯・意義については、以下の文章をお読みいただければ幸いです

過労死を抑止するために、過労死を生じさせた企業名の公表を
〜画期的な行政文書不開示決定取消判決


1 画期的な勝訴判決
 平成23年11月10日、大阪地方裁判所第7民事部(裁判長・田中健治)は、脳血管疾患及び虚血性心疾患等に係る労働者災害補償保険給付の支給請求(いわゆる、過労死の労災申請)に対して、支給決定を下した事案につき、各労基署が、その処理状況を記載した「処理経過簿」のうち「法人名」記載部分を不開示とした処分を取消すという判決を下しました。過労死を生じさせた企業名の公表を命ずる判決は、これが初めてであり、過労死を抑止するとう観点からも極めて画期的な判決といえます。
しかし、国は、控訴をし、引き続き過労死企業名の公表を求める闘いは続いています。

2 過労死企業名の公表の意義
 過重労働によりある労働者が不幸にも脳・心臓疾患を発症して死亡に至った場合、その企業の他の労働者も同じように過重な労働を強いられている可能性が高いといえます。
 このように発症の原因である過重労働を強いられている状態は、例えば石綿(アスベスト)への曝露と同じように、労働者の生命に対する危険因子であるといえるでしょう。
 そして、過労死事件で労災認定を得たり、民事で損害賠償を勝ち取ったとしても、過労死を出した企業の職場環境が一向に改善されていない場合があります。また、同じ企業の労働者ですら、自分たちの会社で過労死が出たことを知らない場合があります
 労働者から最も尊い生命を奪う働かせ方をした企業は、再発防止策を講じる義務を負っているはずです。
 他方で、一人一人の労働者は弱い存在であり、過労死の危険因子である過重労働の改善のためには、その企業の経営者・労働者による労使交渉はもちろん、市民による企業への社会的監視が不可欠です。
 また、求職者が就職するにあたっては、その企業が過労死を生じさせたことがあったか否かは企業の善し悪しの判断に重要な情報にもなるでしょう。
 そこで、全国過労死を考える家族の会代表で、自身も夫を過労自殺で亡くされている寺西笑子さんが請求人となり、平成21年3月5日、過労死の労災申請事案について労基署が作成する「処理経過簿」に記載された企業名の開示請求を行いました。

3 大阪労働局の不開示決定とその理由
 大阪労働局長は、同年4月30日、上記企業名について不当にも不開示とする決定を下しました。具体的には、企業名に該当する箇所については墨塗りされた処理経過簿しか開示しませんでした。上記不開示決定の理由は以下のとおりです。
@ 個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日の他の記述等により特定の個人を識別することができる情報が記載されており、情報公開法第5条第1号に該当すること
又は
A 特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報が記載されていることおり、情報公開法第5条第1号に該当すること
   かつ
B 同号ただし書きイからハまでのいずれにも該当しない
 イ 省略
 ロ 人の生命、健康、生活、又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる
   情報
 ハ 省略

 すなわち、@企業名は個人識別情報であり、個人のプライバシーを害するという点が主な理由となっており、A仮に個人識別情報でなくとも、人の生命、健康、生活、財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報には該当しないというのが不開示の理由です。

4 情報公開請求訴訟の提起
 寺西笑子さんは、前記不開示決定に対し、同年6月29日、厚生労働大臣に審査請求をしましたが、その裁決をまたずに、同年11月18日、国を相手取り上記不開示処分の取消訴訟を提起しました。

5 訴訟における争点と裁判所の判断の概要
(1) 国は、訴訟においても、企業名が個人識別情報であることを挙げ、被災者の近親者や、地域住民等の保有する情報と照合すれば被災者個人が特定されると主張していました。
これに対し、当方は、個人が識別される情報か否かは、一般人が通常入手し得る情報と照合して個人が特定されるか否かを基準とすべきであると反論していました。
そして、裁判所は、上記の当方の主張をほぼ全面的に採用し、個人の識別可能性は、一般人を基準とすべきであり、一般人が通常入手し得る情報と照合しても、企業名から被災者個人が特定されることにはならないとの判断を示しました。
(2) また、国は、訴訟において、あろうことか、企業名の公表によって、事業者にとって労働者の新規採用や他企業との競争上の地位などの正当な利益を害するおそれがあると主張してきました。
 そもそも、大庄事件の高裁判決の中でも「至高の法益」といわれた労働者の生命・健康を害してまで守るべき利益など「正当」といえないことは明らかですし、過労死が二度と生じないように労働環境の改善をはかったことを公に説明することが、市民・労働者からの信用を得て真に正当な競争上の地位を得ることができるというべきでしょう。かかる主張を行うような国の認識は厳に改めさせる必要があるのではないかと思っています。
 裁判所も、仮に一定の社会的評価の低下が生じたとしても、そのことが直ちに当該企業が取引先からの信用を失うものとは認められず、抽象的な可能性に過ぎないと判断しています。
(3) さらに、国は、訴訟において、過労死を生じさせた企業名が公表されると、企業が広く社会に知れ渡る可能性があることを危惧し、積極的な情報提供をせず、非協力的な対応となり、被災者に関する広範かつ詳細な調査が実施できないことにより、迅速な労災認定が困難となるとも主張していました。これについては、国は、主任労災補償監察官の同旨の陳述書まで提出してきたのです。
 しかしながら、そもそも労災保険法は、行政庁に強制調査権限を与えて、これに従わない事業主に罰則規定を設けているのであって、事業者が、強制調査や罰則を恐れて任意調査に応じるようにして実効性を担保していますし、国の主張は失当であると反論していました。
 これについても、裁判所は、企業名の公表から、事業者が調査に対し非協力的になり、労災保険事業の適正な遂行に支障が生じるという蓋然性が存するものとはいえないとの判断を示しました。
(4) 上記の他にも、弁護団は、アスベストについては事業場名が公表されていること、スーパー玉出の過労死事案など事業主が送検されている場合には事業場名が公表されていることとの均衡からも、企業名が公表されるべきと主張していました。
 過労死を生じさせて送検されていたら公表しておいて、たまたま送検しなかったからといって公表はダメだというのでは誰がみても納得できるものではないのではないでしょうか。

6 結審期日での寺西笑子さんの意見陳述
 この裁判は、平成23年7月12日、原告として寺西笑子さんの意見陳述が行われて結審をしました。寺西笑子さんの意見陳述では、過労自死により愛する家族を失った遺族として、過労死・過労自死により一人も命を失って欲しくない、深い悲しみの底へ突き落とされる遺族をこれ以上生み出してはいけないという強い想いが語られました。
 たとえ、過労死の労災認定を勝ち取ったり、民事賠償を得たとしても、そのことにより愛する者が戻ってくる訳ではない。過労死事件に取り組む弁護士として、この当たり前の事実を痛烈に再認識させられた意見陳述でした。寺西さんの意見陳述は、1審判決に大きく影響を与えたものと思います。

7 過労死企業名を全国的に集計して公表する制度の構築に向けて
 厚生労働省職業病認定対策室に確認したところ、同省が全国の労働局・労働基準監督署から集計しているデータとしては、毎年同省が発表している労災補償状況の統計データ以外にはなく、本省として全国における過労死を生じさせた企業名を把握していないとのことです。
 過労死・過労自殺の労災認定が出された企業を全国的に集計・把握しておくことは、企業名の公表の前提としてだけでなく、過重労働対策の政策・行政指導の運営のためにも重要ではないでしょうか。
 本訴訟を、国に全国における過労死労災認定が出た企業名を把握・集計させ、これを公表させる制度の構築に向けた運動の契機としたいと考えています。 
posted by YoshihideTachino at 10:11 | TrackBack(0) | 裁判
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